海洋ゴミ楽器大図鑑
中国の二胡(にこ)を参考にして作った
海洋ゴミ楽器『ニコロジー』。
海洋ゴミ楽器の中では
魚頭琴・ステラレヴァリウスに続く、擦弦楽器です。
二胡と同じく、フレットや指板がないため
ヴィブラートや音程の移行が自由自在で、
哀愁のある多様な音色を奏でることが出来ます。
・塩ビ管
・ペットボトル
・ペットボトルのキャップ
・芳香剤のフタ
・魚型のルアー
・釣り竿
・釣り糸
・自転車のブレーキホースのワイヤー
・アルミ缶、スチール缶
・流木
まずは、拾った塩ビ管を大体 二胡の胴と同じサイズにカットします。
ゴミンゾクのテーマの一つでもある、自然素材との共存はもちろんの事
そして、雅楽器の『能管』の仕組みからヒントを経て
竹から得られる音響効果を期待して
内部には、海で拾った竹を割って敷き詰めてみました。
次は、共鳴胴の裏板、そしてサウンドホールを作ります。
ペットボトルのキャップはポリプロピレン(PP)というプラスチックで出来ていて
お好み焼きを焼くくらいの温度で粘土状になるので
こねて共鳴胴の裏面に合うサイズの板を作り、穴をあけて芳香剤のフタと接着します。
裏面が整ったら、次はこの楽器の音色を決定づける「皮」を表面に張ります。
中国の二胡ではニシキヘビの皮が使われますが
この楽器には厚みや質感が近かった、タイから流れ着いた珍しい黄緑色のペットボトルを使用しました。
良い音で鳴らすためには、皮をできるだけ強く、適正な張力まで張る必要があります。
そのため、皮の張り方はギニアの太鼓ジェンベの手法を参考にしました。
ペットボトルは、もともと「プリフォーム」と呼ばれる試験管のような素材を加熱し
金型の中で空気を送り込んで膨らませることで成形されています。
この素材は、熱を加えると収縮する性質があります。
この性質を利用し、ロープで皮を強く張った状態で
塩ビ管の形に合わせるようにドライヤーの熱風を当てていくと
元からその形だったかのように、ピタリと塩ビ管に密着します。
密着したら、もう一度張り具合を微調整し
最後に鋲を使って皮を完全に固定します。
胴体がほぼ完成しましたが、塩ビ管のままでは少し味気なかったので
水をイメージしたデザインで装飾する事にしました。
たくさん拾ったアルミ缶の中から、水がイメージできるものを選び出し
それをいくつか組み合わせて塩ビ管に張り付けていきます。
本体が仕上がったら、今度は棹(さお)を作ります。
棹本体は、釣り竿。ヘッドの糸巻を通す部分には流木を使用しています。
糸巻は、硬さが要求されるため、桜の木の枝を削って作りました。
棹の頭頂部には、ゴミンゾク初の擦弦楽器である魚頭琴(ぎょとうきん)
との親和性を持たせるためにルアーで装飾します。
棹全体が仕上がったら、胴体に穴をあけて接続します。
弦には、自転車のブレーキホースの中から取り出したワイヤーを使用します。
このワイヤーは、たくさんの細い鉄線を束ねて作られているので
それをほぐして、なるだけ鉄線の癖を取り除き、弦として使用しました。
これで楽器本体は、ほぼ完成です。
弓の本体には、かなり細い釣り竿の先端部分を使用しました。
金属弦を擦る際、釣り糸にわずかな折れやクセがあるだけでも
それが雑音として表れてしまいます。
そのため、拾ってきた釣り糸の中から
とにかく細く、折れ曲がりや傷の少ないものを選んでほどき、束ねました。
釣糸の長さを調整したら両端にフックを取り付け、釣り竿の両端に引っ掛けて張ります。
さらに弓毛の幅を安定させるため、スチール缶を切って板を作り
釣り糸の両端を挟み込んで平らにして固定しました。
最後に、楽器の底部に底板を取り付けます。
この板があることで楽器が自立するだけでなく、
膝の上に載せて演奏する際の安定性も高まります。
さらにもう一点。
二胡の糸巻は少し回しただけでも音程が大きく変わってしまうため、
ネジを回してチューニングを微調整できるアジャスターも製作しました。
これにより、細かなチューニングが可能になります。
底板とアジャスターは、どちらもペットボトルのキャップを溶かして作りました。
これにて、細部まで精巧に作り込んだ海洋ゴミ楽器『ニコロジー』の完成です!
この楽器は時系列で言うと、ゴミンゾクでは
モンゴルの馬頭琴をモチーフにした『魚頭琴(ぎょとうきん)』
バイオリンをモチーフにした『ステラレヴァリウス』に続く
3台目の擦弦楽器にあたります。
今回は、ニシキヘビの皮の代わりに
ペットボトルを皮として張るにあたり
アフリカ・ギニアの太鼓の皮の張り方を参考にしました。
世界中の民族が、それぞれの土地で培ってきた音楽への智慧。
そして、プラスチックのリサイクルに使われる科学知識。
一見まったく関係がないように見える楽器や素材の中にも、
次の楽器を生み出すヒントは、驚くほどたくさん隠れています。
拾ってきたプラスチックゴミでさえ、
誰かの文化や技術とつながる“入口”になる。
その知識を数珠つなぎにしていくことで
奇跡のように、ゴミンゾクの新しい楽器は生まれています。
そして、このニコロジーの製作で培った技術もまた
次の楽器作りへと受け継がれていくのです。
実はこのニコロジーの元になった楽器は、2021年の時点で完成していました。
当時は、共鳴胴は漂着ブイをカットしたもの。
皮にはお弁当のフタ(PET素材)を使い、低音弦は釣り糸で作っていました。
しかしこの時点では、楽器としてはまだ甘い出来で、
高音に行くと音が裏返ったり、響きがあまり良くなかったのを覚えています。
そこから数々の楽器製作を通して擦弦楽器への知見を得たことで、
4年の月日を経て、ニコロジーが完成しました。
高い壁にぶつかっても、遠回りをすることで、
問題が解決することもある。それを肌で感じました。
そして今回制作したニコロジーのネックや、ルアーで作った飾りなどは、
この楽器をバラして作ったものです。
また、共鳴胴に使用していたブイは、今では別で制作した太鼓の胴の一部として使用しています。