海洋ゴミ楽器大図鑑
葉加瀬太郎さんとの共演をきっかけに、
製作に取り掛かったバイオリン型の海洋ゴミ楽器。
17〜18世紀の名器にちなんで、
「ステラレヴァリウス」と名付けました。
低音弦には拾い集めた釣り糸を、
高音弦には自転車のブレーキホースから取り出した
細いワイヤーを採用しています。
・漂着ブイ(3個)
・ペットボトルのキャップ(約300個)
・釣り糸
・釣り糸に付いていたビーズ
・自転車のブレーキホース(中のワイヤー)
・自転車のスポーク
・しゃもじ
・ナガラミ貝
・流木(製材されたもの)
・水道管
まず、いくつかの漂着ブイを輪切りにします。
次に、その曲面を活かしながら、楽器のシルエットに近づけるため、
熱を加えてブイを変形させます。
そして、形を整えたブイ同士を接着し、
バイオリンの横板を作ります。
次は、バイオリンの響版を作ります。
青いペットボトルのキャップをホットプレート・アイロン等で溶かして
バイオリンの表と裏の板を作ります。(使用したキャップは表裏合わせて300個ほど)
※3枚目は、数百年前のとても貴重なバイオリン、ヴァルネリとの比較写真です。
表と裏の響板が完成したら、裏の響板を横板と接着します。
いよいよ、バイオリンっぽくなってきました。
次はネックの製作に取り掛かります。
ネックは、指板に黒い水道管を使用。
流木を同じ径になるように削って接着し、
ネックの形になるまで削ります。
ネック本体の成形が終わったら、今度は糸巻(木ペグ)を取り付けるヘッドの部分を作ります。
同じく流木を削り出して 、糸巻を通すための穴を正確に開けたら、
ネック本体とドッキング。
スクロール(一番てっぺんの渦巻装飾)は、
流木を削るよりも巻貝の方が趣があると感じたので
ナガラミ貝を流木に埋め込んで作りました。
糸巻は、木の枝を削って作ります。
堅めの枝を使うのがコツです。
(今回は庭師さんが剪定した後の白樫の枝を使用しました。)
弦の振動を胴に伝えるための駒も、流木を削って作ります。
いよいよ胴体と表の響板で箱を作る段階に入りますが
表の響板で胴体にフタをする前に、制作者であるリーダーの名前などをラベルに記しておきます。
ラベルは、数百年もの年月を重ねたような雰囲気を出すために、
古紙をコーヒーで染め、ドライヤーで乾燥。
そこに“それっぽい”文字を印字して仕上げています。
フタをする前に、表の響板にもサウンドホールを開けます。
本来のバイオリンでは「f字孔」が用いられますが、
今回は音響面・耐久面ともにその特性へできる限り近づけた
「g字孔」を採用しました。
この「g」には、
「fの次に挑む」というチャレンジの意味。
そして、ゴミンゾクの「g」。
さらに英語でゴミを意味する “garbage” の頭文字「g」。
という、トリプルミーニングが込められています。
次に、『バスバー』と呼ばれる低音弦側の補強材を取り付けます。
本来は木材が使われますが、今回は流木を削って製作し、
特殊な接着剤とビスで貼り付けました。
このバスバーには、板を補強するだけでなく、
響板そのものの音色をコントロールする役割もあります。
(※写真にはありませんが、流木で作った魂柱も高音弦側に立ててあります。)
板が完成したら、胴体にフタをするのと同時に、
ネックも胴へ接続します。
あとはテールピースを作れば、弦の通り道が完成です。
テールピースは、プラスチック製のしゃもじを加工して作りました。
上部にはアイロンを使って「追いプラ」
(緑・黒・青のペットボトルキャップを砕いたもの)を圧着し、
着色と同時に強度も高めています。
さらに、4本の弦の張力を受け止めるため、
しゃもじのお尻部分には、テールピースを本体に固定するための金具を取り付けました。
この金具は、自転車のスポークを用いて製作しています。
テールピースを本体に取り付けたら、いよいよ弦を張ります。
高音弦(E線・A線)には自転車のブレーキホースから取り出したワイヤーを。
D線にはブルーの30号ほどの釣糸を。
低音弦は、単体の釣糸では再現できなかったので
モンゴルの馬頭琴から着想を得て、細い黄色の釣糸を12本ほど束ねて作りました。
テールピース(しゃもじ)側に、
釣り糸に使用する錘やビーズなどを取り付けてありますが
これは、チューニングを微調整する機能です。
シタールなど、インドの楽器から着想を得ました。
※本物のバイオリンと同じく巻弦を作ってみたのですが
実験段階で材料が足りなくなり、今回は断念しました。(後述)
次は、バイオリンを体に固定するための顎あてを作ります。
顎あてには、緑色のペットボトルキャップを溶かして成形したものを使用しました。
本体に取り付ける際は着脱式にしたかったため、
自転車のスポークを折り曲げ、洗濯ばさみのような構造に加工。
バイオリンを挟んで固定できるようにしました。
これで、本体は出来上がりました。
最後に、弓を作ります。
ゴミンゾク初の擦弦楽器「魚頭琴」の時は、
釣り竿のしなりを活かした純反りの弓でした。
でも今回はバイオリン。
近代的な弓の構造を参考にして、作り直します。
竹をしならせ、両端に溶かしたペットボトルキャップで作ったパーツを装着。
そこへ拾ってきた釣り糸を約100本張りました。
手元側はネジで張力を調整できる仕組み。
弓の張り具合を変えられるようになっています。
これで、バイオリンの完成です!
ゴミンゾクにおける弦楽器の道のりは、
「拾った釣り糸から音が出るのか?」
という実験から始まりました。
拾った釣り糸でも、
指やピックで弾けばしっかりと音楽的な音が鳴る。
それが確認できたことで、
次は「釣り糸を釣り糸で擦っても音が出るのか?」という実験へ。そうした試行錯誤を繰り返す中で、
拾ってきたブレーキホース(自転車)の中にあるワイヤーが
バイオリン弦と近い太さであることに気づきました。
「もしかしたら、これでも音が出るかもしれない」
その着想から、ゴミンゾクの楽器に金属弦が誕生したのです。
人の声にも近い音色を持ち、
フレットが無いため世界中のさまざまな音律に対応でき、
さらに持ち運びにも優れているバイオリン。
今回、擦弦楽器の王様とも称されるバイオリンと
数か月間向き合ったことで、
この楽器がクラシックの枠を飛び越え、
世界中の民族音楽で使われている理由を
改めて肌で感じることができました。
実は先述の通り、今回は本来のバイオリンの弦に近づけるべく、
巻弦(D線)にもチャレンジしていました。
自転車のブレーキホースの中から取り出したワイヤーを芯にし、
拾ってきたコイルの中から取り出した銅線を、
とにかく何時間もかけて丁寧に巻き上げていきます。
そして
本当に良い音がする金属の巻弦が完成!
……と思ったのも束の間。
最低音のDに到達する前に、Cあたりで弦が切れてしまいました。
そこで今度は、少し引っ張りに強そうな釣り糸を芯にして再挑戦。
しかし、銅線を巻けば巻くほど弦の音程が下がっていくため、
それに合わせてチューニングを高くしていくと、
やはり芯の釣り糸が切れてしまいます。
本当に良い音がしていただけに残念ですが、
拾った材料が足りなくなったため今回は断念。
どうやら廃材から巻弦を実現するには、
芯の素材や太さをさらに研究する必要がありそうです。
ただ、そのおかげで
馬頭琴の弦から着想を得て、束ねた釣り糸で低音弦を作ったことで、
個性的で野性味あふれるバイオリンになったと思います。
今回の実験で分かったのは、
単体の太い釣り糸や、D線と同じ太さのワイヤー(針金)など、
単一素材だけでは音の良いD線を作るのは難しいということでした。
(針金と言えるほどの太さのものは、弦には向いていないようです。)
巻弦、かなり奥が深いです。
またいずれチャレンジしてみたいと思います!